○File No.3 APPENDIX

生き物のココロ


図:ソシオン



図:イシュー



図:擬人

人工無脳にとっての社会の表現

雨宮俊彦,木村洋二,藤澤等によって提唱されたソシオン理論1は図のような記号を使って社会構造の記述とダイナミクスの表現を目指した,直感的に理解しやすい理論である.
 まず左の大円は人工無脳自身,右の大円はユーザを指している.[私I]〜[私III]は-1から1の値を取る荷重とよばれ,値が大きいほど依存性が強いことを示し,ギャルゲーで言うところの好感度のことだと考えて差し支えない.[私I]は人工無脳がユーザをどう思っているか,[私II]はユーザが,人工無脳をどう思っているか,[私III]は人工無脳の自己評価,となっている.もちろん人間であっても本当は相手がどう思っているかを知る手段は無いので,図に示したような値はすべて人工無脳の主観である.
 
 人間が相手と会話する場合は心の奥で常にこの[私I]〜[私III]を念頭において話す内容を決定している.たとえば相手は自分のことをそれほど好きでもないが,自分が相手を好きな片思いだとか,自分自身のことがあまり好きでないけれども相手は自分を好きでいてくれる,などである.このたった3つのパラメータを人工無脳に実装することで,彼らも同様にユーザのことを考えることができるようになるのではないだろうか?
 それぞれの値はユーザとのやり取り,人工無脳の仮想的な体調や外界からの刺激などによって常に変化し,ある程度の乱数成分も含まれると考えられる.

 ソシオンにはこのほかにイシューおよび擬人とよばれる特殊な型がある.前者は荷重Iだけがあるソシオンで,自分はその対象についてある荷重を追いているが,その対象は自分を考慮しない.映画や小説の登場人物,一般的な「もの」,一般的な「こと」を考えるとわかりやすい.後者はその逆で荷重IIだけを考える.すなわち自分は対象について何も考慮しないがその対象は自分に荷重を置いている.この例として集団,社会,制度など個人に対して評価を与えることのできる対象が含まれるとされている.


図:ソシオマトリクス
 ここでは1対1の関係について触れたが,ソシオン理論は多対多の関係を記述でき,それをソシオネットワークと呼ぶ.ソシオネットワークに含まれる荷重は行列を用いて表記することができる.



図:衝動

動機づけ

 現在のところ人工無脳と人間の思考の最も端的な違いは動機づけ2があるかどうかである.すなわち人工無脳は目的を持って会話をしていないので場当たり的な発言しかできないということがわかる.この動機づけは人間でなくてもあらゆる動物に備わっているかなり低レベルの機能である.左図はニワトリの動作を説明する図を簡略化したもので,感覚系で敵の接近を捕らえると,それによって動機づけ系が活性化し,それぞれの運動を引き起こすことを説明している.実際には閾値・馴れ・学習などの要素がそれぞれの間にあるのだが,この考え方は人工無脳に応用することができる.上記のソシオン理論で用いられている[私II]すなわち好感度を感覚系の入力として考え,人工無脳の振る舞いをいくつかに分類することで以下のような例が考えられる.


-1 ← [私II] → 1
きらい
ニュートラル
すき
攻撃逃避疑惑消極ニュートラル親切困惑友好親愛


反応連鎖

 これらは動物や昆虫に見られる行動である.ヒキガエルは獲物を見つけると,
 (1)獲物のほうに体を向ける
 (2)両目で獲物を捕らえる
 (3)舌を出して獲物をからめとり,呑みこむ
 (4)呑みこんだ後,前肢で口をぬぐう
という一連の行動を見せ舌を出した瞬間に獲物を取り除いてしまっても,(4)までの行動を行なってしまうという.またジガバチは,あらかじめ地面に竪穴を掘り土の塊でふたをした状態にして獲物のイモムシを探しにゆく.そして捕まえたイモムシを麻酔で動かなくしたのち竪穴のそばまで移動させる.次にいったんイモムシのそばを離れ,穴の中に入って状態を確認してから戻ってきてイモムシを穴の中に引きずり込んで産卵する.
 ここでジガバチが確認のため穴に入ったとき,イモムシを1mほど動かしてしまうと,でてきたジガバチはあったはずのイモムシを慌てて探し始める.しばらくしてイモムシを発見すると,再び穴のそばに引きずって行き,いったんイモムシのそばを離れ穴の中に入って状態を確認する.確認中に再びイモムシをどかしてしまうとこの間の行動を何回でも繰り返し,毎回穴の点検行動を繰り返してしまう.
 生き物のこのような一連の行動(=プログラム)は一見非常に順序だてられ巧妙にみえるが,ステップごとに思考しながら行なっているわけではないことがわかる.



1 藤澤等, "ソシオン理論のコア", 北大路書房(1997) ISBN4-7628-2075-X
2 青木清編著, "図解生物科学講座C 行動生物学", 朝倉書房(1997) ISBN4-254-17584-1
 
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