○File No.3

人工無脳のココロ I


図 1. 精神状態の概念図

移りゆくココロ

 人の心と人工無脳にはどのような差があるだろうか.まず思いつくのは感情の起伏があるかないかである.人の場合,毎日同じような質問をしても返ってくる返事はそのときの気分や体調によって変化する。そして気分や体調は,他者とのインタラクション,気候,仕事などさまざまな要因によって影響されると考えるのが自然である.また感情の起伏とは言っても良いとか悪いとか,一次元的に示されるようなものではなく,喜怒哀楽のようないくつかのパラメータの組み合わせで示すほうが実際の感情をよく表すことができる.人工無脳の精神状態を示すモデルとして、図1のような「明暗-忙閑」モデルを使って考えてみる.
 まず明-暗を決めるパラメータとしてユーザとのインタラクションと人工無脳の体調を用いる.ユーザとのインタラクション,すなわちユーザがかまってくれると人工無脳は明るくなり,ユーザが無視したり放置しつづけると人工無脳は落ち込んでゆく.体調がよいときは精神状態もよくなり,体調が悪いときは心も沈みがちになる.忙-閑を決めるパラメータとして人工無脳cgiをアクセスした回数と人工無脳の仕事量を用いる.アクセス回数が多いほど,仕事量が多いほど忙しくなる.ここでユーザとのインタラクションとアクセス回数はプログラム外部からの刺激であり,体調と仕事量はどちらも内部的に生成される仮想的な値とする.もう少し具体的に精神状態についてイメージをつかむため,日記を例として実際の人間について考えてみよう.我々は明るいとき,落ち込んでいるとき,また暇なときや忙しいときにどんな日記をかくだろうか.
暇 -ネガティブ批評 向精神剤 排他 倦怠 攻撃 逃避
普通-ネガティブ悩みの打ち明け おちこみ 一言ぼそっと文句
忙-ネガティブサボる 気を紛らす
暇 -ニュートラル今日の暇つぶし 今日の買い物 今日のネットサーフィン イベント参加 散歩
普通-ニュートラル今日の出来事 最近の仕事の調子 今日の趣味 今日の世界情勢 見た夢
忙-ニュートラル今日の天気 サボる 代打 仕事に不満
暇 -ポジティブあるじ観察日記 主と遊ぶ あるじにいたずら あるじに提案
普通-ポジティブ随筆 主と買い物 お礼 変わった出来事 気に入ったこと
忙-ポジティブ仕事がんばる! 仕事に満足
このあたりの内容は人工無脳の製作者によってもちろん大きく変わる部分であるし,個性が発揮される部分でもある
 
 このような精神状態の表現を具体的に考えてみる.


刺激に対する生物的な応答

外部的な刺激  恋愛シミュレーションや育成シミュレーションではユーザとの会話によってさまざまなパラメータを変動させるというテクニックはすでに定番であり,プレイヤーはパラメータの変化に一喜一憂しているが,実際の生き物の応答はゲームのようにただ上下するだけではない.例えば真夏にクーラーの効いた部屋に入ると「涼しく」感じるがしばらくその部屋にいるとはじめほど涼しさを感じなくなる.また同じ25℃の部屋に入ったとしても,夏の25℃と冬の25℃には体感温度に差がある.同じように誰かからプレゼントをもらう場合も,はじめてもらったときはとてもうれしいが何回ももらっているとうれしさの強度ははじめのころほど大きくなくなる.このような挙動は生物の温度受容器が温度変化に対してみせる変化にとてもよく似ている.従って,expのような減衰関数に切片を加えることで簡単に表現できる.
内部的な刺激  体調や仕事は内部的な刺激として扱う.すなわちユーザのインタラクションと関係なく変化する値で、本来はフラクタルな変化をすると思われる.ところがフラクタルなノイズを発生する関数は手間がかかるため,プログラム上では長周期のサインカーブと短周期のサインカーブの和程度の近似で表せる.
フィードバックする成分  人間では,仕事が多くなりすぎると精神状態は悪化し,暇になれば明るくなる.また精神状態が悪くなりすぎると仕事の能率が低下し,精神状態がよいときは仕事の効率が上がる.一言で言えば明暗と忙閑はお互いにフィードバックがかかる.

*:ニューロコンピューティング
ニューラルネットワーク入門が優れたチュートリアルである。



図2 ニューロンのモデル


図 3 フィードバック付き2chニューロ回路

人工無脳へのニューロモデルの応用

 さてこのようにさまざまな要因に影響され日々変化してゆく人工無脳の精神状態はどのようにまとめたらよいだろうか.人工知能の入門書を紐解くと「ニューロコンピューティング*」という概念が都合よく利用できそうである.
 ニューロとは神経細胞のことである.図2に示したニューロンの数理モデルは1943年にW. S. McCulloch と W. H. Pittsが提唱したものである.このニューロンは多入力単出力の積分器であり入力端子にはゲインがそれぞれ設定できるようになっている.また出力はすべての入力をゲインを考慮して加算し,関数 f を通して出力値となる.出力値の単純なモデルは閾値によって1または0の値を取るON-OFFタイプであるが,一般的にはシグモイド関数(S字型曲線)を用いて連続的な出力値を取るものが多い.
 この仕掛けを使って人工無脳の精神状態回路を考えると図3のようになる.2つのニューロンはy成分(明-暗)と,x成分(忙-閑)を受け持ち,お互いのニューロンからのフィードバックとその他の外的なファクターを入力として持つ.具体的には
I1 = ユーザとのインタラクション
I2 = 体調
I3 = アクセス回数
I4 = 仕事量
Ox = 明 - 暗
Oy = 忙 - 閑
 となる.この回路の部分だけをプログラムとして組んでテストすれば,精神状態の挙動がわかる.
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