○File No.1

人工無脳と出会う


 コンピュータの処理能力が向上し,誰もが手軽に高度なプログラムを書けるようになった1980年ごろ人工無脳は生まれた.それはコンピュータの本来の使命ともいうべき「思考する」というテーマに誰もが手軽に取り組むことができるようになったことを意味した.
 そのころ作られた人工無脳は二つの機能からなっていた.ひとつは人間の入力した文字列の中から自分の知っている単語を探索し,用意された文字列を返すという漢字変換類似の機能である.もうひとつは入力された文字列の中から未知の名詞を探し,それが何かをたずねる学習機能である.このような単純な機構でも時には会話が成立しているかのような感覚を味わうことができた.

 しかし会話のパターンは学習が進むと単調になる傾向があった.その原因はいちユーザによってのみ学習が行われることで,結局そのユーザの知識や意識だけを反映してしまうために学習すればするほどユーザ自身の「ひとりごと」へと近づいてしまうことにあると考えられる.この状況はしばらく続き,人工無脳の進化は一時休止していたがネットワークの普及に伴ってCGIなど複数のユーザが人工無脳の学習に関与できるインフラが整備され,機構としてはあまり変化しないものの運用形態が変わったことにより人工無脳には新しい時代が訪れた.

 人工無脳との会話を単調にしないための機構はそれぞれのプログラマによってかなり工夫されていた.もっとも単純なしかけは占い,日付の通知,挨拶などで人工無脳を単なるおしゃべりプログラムから,何らかの仕事をしうる存在として発展させようとしたのである.より発展した会話モデルとして,一連の受け答えをおこなう人工無脳も存在する.これは人工無脳が自発的にユーザに問いかけ,次の入力でユーザが返答することを期待してその直後に返答へのリアクションを返す仕掛けである.このメカニズムはユーザの返答がどうであっても割と自然な対応をするので,より会話っぽい感覚を楽しむことができる.そのほかにも人工無脳の知識ファイルに何かを問い掛けるようなせりふや警句,批判などを大量に置くことでユーザにより高度な返答を求めるなどの試みが見られた.
 結局これらの試みはユーザが人工無脳の対応に飽きないようにするための仕掛けである.そういったアプローチの一種としてペルソナが採用している「知識ファイル定期更新システム」はネットワークを介した新しい試みとして成功を収めている.これは知識ファイルをサーバーから自動的にダウンロードすることでフレッシュな時事ネタを提供する画期的なシステムであるが時事ネタは文脈を重視するためか現バージョンではペルソナ全体は人工無脳というよりはシナリオに近い.

 これまで見てきた人工無脳の長所は,単純なシステムで会話感覚を楽しめる点である.さらにアルゴリズムが単純であるゆえに誰でもその設計に参加できる点である.短所は人工無脳の対応が比較的単時間で飽和してしまう点であり,種々の延命策が考案されているものの充分とはいえないと,いちユーザとして感じている.そこで次回以降は,人間と人工無脳の違いから飽和しにくい仕掛けとはどんなものかを考えてゆく.
[TOP] トップページへ 人工知能と人工無脳[NEXT]