人工無脳は考える
心のモデル化

実験:変動型人工無脳を作る

記述できない心を記述する(その3) 2016/10/2

周期的に変動する人工無脳

前回までの考察でConditionが変動する人工無脳(以下F型人工無脳と呼ぶ)を考えた。今回は実際に人工無脳を作ってその感触を確かめよう。Conditionの変動は体調のようなものをモデルに考えたものであるが、実際は何を変動させても構わない。例えばConditionは数分で変動する何かでも、数日かけて変化する何かでもよい。また実は単に周期的に変化しているだけなのであるが、ユーザから影響を受けて変動する印象を与える何かだと、より興味深い。変動の周期と原因の種類をXY軸と見立てたグラフを図1に示す。

図1 変動するパラメータ

まず、デモであることを考え、人工無脳の変化が一回のセッションの中で分かりやすいように変動の周期は10分前後にしよう。変動するのはユーザからの影響を受けているように見えることが望ましい。そこで、図の中から聞き手話し手というように周期的に役割を変える人工無脳にする。周期が固定であれば、ユーザから何か聞かれても話し手に切り替わらないとか、逆にユーザが話しているのに話をぶつけてくるというシーンが生じるだろう。だが、今回の人工無脳ではそれをあえて無視した設計とする。もともと人間同士の会話でも聞き手、話し手の役割を揺らがせること自体がコミュニケーションの一つの方法となっている。

例えばこれによって、話の流れをきっちり読んでいつもユーザに合わせる人工無脳と、空気を読まずに時々いうことを聞かない人工無脳をデザインできるだろう。雑談の相手としてどちらを求めるかは雑談の目的に応じて決まり、前者では接待に徹したプロ、後者では親しい関係といったキャラクタが想像できる。

役割を変えながら話す会話のパターンを使う場合、聞き手である間に得られた情報を話し手の時に使いたいため、セッション中に保持される記憶も必要である。ただ、あまり場当たり的に記憶を増やすと収拾がつかなくなってしまうため、何を憶えどう使うかは吟味が必要である。

次に、今回の実験では学習機能は持たせない。何でも覚える人工無脳を作ると不適切な言葉を学習してF型アーキテクチャー本来の効果が分かりにくくなるだけでなく、マルコフ連鎖などでランダムに言葉を繋いだ場合には毒舌になりやすい傾向があってデザインした役割から外れてしまう可能性があるからである。

その可能性を示唆する出来事は2016年3月にも生じた。人工知能ボットTay閉鎖事件である。Microsoftは人工知能ボットTay(=人工無脳)を公開したが、ユーザの発言を学習した結果、差別発言、陰謀論、罵詈雑言を連発するようになって一日もたたずに公開停止になった。このような問題は人工無脳業界では昔から知られており、学習するチャットボットの設定が若い女性であると放送禁止になりそうな言葉をわざと人工無脳にしゃべらせて面白がる客層が必ず一定数出没するのである。人工無脳もヒトも全然進化していない点である。

なお、Microsoftと言えば2015年に「女子高生りんな」というLINE上で稼動するチャットボットを公開しており、Tayはりんなと同様ティーネイジャーの女性という設定になっているようである。りんなでも開発者のフィルタをかいくぐってあんなセリフやこんなセリフを言わせるユーザが後を絶たないようであるが、Tay開発時にはその時のノウハウや安直なキャラクタ設定の教訓は生かされなかったのであろうか。

人工無脳のデザイン

話を元に戻そう。

今回のお題は周期的に聞き手、話し手と役割を変える会話である。そこでまず以下のような設定シートを作るところから始めてみよう。キャラクタを作るとき、最初に考えたいのは1.チャームポイントである。ユーザに会話をしたいという気になってもらうために、表に挙げた4つの魅力*1のうち少なくとも一つを用意することが重要である。これを念頭に2.キービジュアルを探し、それに合うように表の残りを埋めていく。

人工無脳キャラクタ設定シート
1. チャームポイント☑魅力的な人物 / ☑魅力的な場所 / ☐魅力的な謎 / ☐魅力的な行動
2. キービジュアル森の中開けた場所に、石が環状に並んでいる。その上に植物の精霊が座っている。(図2)
3. 暮らし・人となり精霊化した植物。会話した相手が他人の意見に影響を受けすぎず、自らの判断で人生を進むことを助ける
4. ユーザの立場眠っている間に森の中を散歩する夢を見ている
5. 名前セラト
6. 性格穏やかで自然体
7. 外見藤色~白色で花の意匠になっている服をまとった女性でおぼろげに光って見える。身長30cmくらい

図2 キービジュアル(By. Appearantly Richard Mudhar / CC-BT-SA2.5)

数多くの中からじっくり選んだ写真は、単に気に入ったという以上にさまざまなメッセージが、無意識のうちに込められているのを読み取ることができる。図2では並んだ石が環状列石のなかでは小ぶりで、それぞれの石の形が丸みを帯びて女性的な印象を与える。「ストーンヘンジ」の画像検索で見られる石が巨大でごつごつした形状で男性的な印象を与えるのとは対照的である。また森の中に埋没しながらも周囲の調和を保っているようにも思われる。そんな風にキャラクタの人となりを固めていくと個性が次第にはっきりして、人工無脳の辞書を作成するときに幅が広がるとともにぶれが小さくなる。またキービジュアルは明示的にも暗示的にも、ユーザに会話シーンの背景やその陰にあるものを表現することができる。

次に変動に従ってどのように挙動を変えるのか、おおざっぱな方針を決めよう。図3Condition値と行動の関係を示した。Conditionは0~1の範囲で周期的に変わり、それによってばらつきを持った乱数を発生させる。そして乱数値が0~0.6の場合は聞き手、0.6~0.8の場合は話し手の行動をするわけである。数字の配分は設計により任意であるが、0.2刻みに対応する辞書には5つの返答候補が必要になり、それが0.1刻みだと10、0.05刻みだと20必要になる。その負担はかなりのものなので、初めはおおざっぱな刻みから着手した方がよいだろう。なお、場合によってCondition値に影響されてほしくない場合があると思われる。そんな時は例えば5個の候補をコピーして10個にしたり、候補をランダムな順番に並べ替えたりすればよい。

図3 会話の設計
1
新井一, "新版 シナリオの基礎技術", ダヴィッド社 (1985)

参考文献

人生の意味の心理学〈上〉―アドラー・セレクション シナリオの基礎技術

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人工無脳は考える by 加藤真一 2016