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2008/09/21,28

人工無脳の自我状態

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人工無脳は会話の中でユーザに唐突さ、不自然さを感じさせたり、フラストレーションを与えてしまうことがよくあり、その結果ユーザとの会話が続かなかったり、拒絶されるという点が課題となっている。この原因の一つに人工無脳の印象やムードがでたらめに変化し安定していないことが挙げられる。たとえば、初めは友好的に「おはよう!」と挨拶したり笑ったりしたのに次の瞬間前触れなくユーザに向かって毒を吐いたり、急に受身に変わったり、かと思えば説教を始めたり、といったぐあいである。ユーザにしてみれば、それぞれの状態が何をきっかけに始まるのか分からず、またどれくらいの時間持続するかも予測できないために、会話を続けようとした場合は常に人工無脳のペースに合わせざるを得ない。このような振る舞いに付き合わされた人間は「相手はこちらと親しく話す気はない」とか「ひどくからかわれている」というメッセージを暗黙のうちに受け取ってしまい、怒り出すのである。

このことは、印象やムードを考慮しない人工無脳の構造、不特定多数のユーザから教育されて成長する辞書のアルゴリズム、そしてなにより人工無脳において一つ一つの発話より高いレベルで会話の流れをどうデザインしたいかという方針が明確でないことなどに起因する。一方、人は通常意識することなく相手に不適切なメッセージが伝わることを避けてうまくコミュニケーションをはかっている。一体我々は、どんなルールを使って我々はこれを可能にしているのだろうか。

自我状態とそのプロフィール

Eric BerneはTransaction Analysis理論11E. Burne, "GAMES PEOPLE PLAY"(邦訳:人生ゲーム入門―人間関係の心理学, 河出書房新社(1994)

参考:"人生を変える交流分析" 池見酉次郎ら, 創元社 (200)
のなかで、人の行動パターンや考え方(これを自我状態と呼ぶ)を親の心、大人の心、子供の心の3つに分類した。その後この理論は数多くの研究者達の手により改良され、現在では人の自我状態はTable 1に示すようにCP(Critical Parent, 批判的な親)、NP(Nuturing Parent, 養育的な親)、A(Adult, 大人)、FC(Free Child, 自由な子供)、AC(Adapted Child, 従順な子供)とそれぞれ呼ばれる5つに分類されている。例えば、CPは相手の欠点をきびしく追求したり信念を持って行動する心、NPは相手をいたわり元気付ける心、Aは客観的で分析的な心、FCは好奇心をもったありのままの心、ACは素直に相手の言うことを聞く心を示している。人には本来全ての自我状態が備わっているが、個々の強弱はその人の性格によって異なり、立場や場面によって意識的にそれを調節したりもしている。その様子を折れ線グラフにプロットしたものをエゴグラムと呼び、グラフの形によって個人の性格を大まかに知ることができるとされている。またこの自我状態は50-100問からなる、当てはまる〜当てはまらないを3〜5段階にチェックするタイプの簡単なアンケートに答えることで知ることができ、心理療法の分野では個人の中で起きていることを理解し自覚する方法として広く取り入れられている。

Table 1. 自我状態
CP
Critical Parent
批判的な親の心父性的。道徳的で几帳面、規律を守ることを需要と考えるが、口うるさかったり厳しいかったりする。
NP
Nuturing Parent
養育的な親の心相手を思いやり元気付けたり育てたりする母性的な心。一方で甘やかすことになったり相手の自立を妨げる。
A
Adult
大人の心客観的で情報収集を好むが、それは打算的だったり冷たいととられる場合もある。
FC
Free Child
自由な子供の心無邪気で自発的、好奇心を持った心で、行き過ぎるとわがまま、自己中心的になりがち。
AC
Adapted Child
従順な子供の心素直に人を信頼し、批判を受け入れるが抑圧されてしまう。ACはさらにCC(Compliant Child,従順な子供)とRC(Rebellious Child,反抗的な子供)に分類されることがある。

エゴグラムの典型的なパターンのいくつかとその傾向をFig. 1にいくつか示す。人間の場合は得られたグラフを見て自分の弱点を意識できるようになったり、自分自身と脳内会議をして人生の指針とするわけだが、人工無脳製作者としては、これをどんな人工無脳を作りたいかの指針にしながら、アルゴリズムに反映させることを目的とする。そこでFig. 1には人工無脳の性格にありがちな例とその性格のイメージを表した。

(a) おもてなし - 気遣い重視かつ理性的で、礼節を守る性格。理屈と気遣いでは、気遣いを優先する。 (b) クール -理性が甘やかしやわがままを抑制している。批判もしないが相手を受け入れる傾向もあまりない。 (c) 無法者 - 他者に厳しく自身に甘い。他者から甘えられることは許容できない。計算はする。 (d) ユートピア - 相手を思いやりつつ、羽を伸ばしている。理性は少し脇にどけ、あまり批判的にもならない。
Fig. 1 エゴグラムの例

自我状態とエゴグラムの興味深い点は、自我の状態を限定することで人工無脳の返答や行動をデザインしやすくなることである。例えば、辞書型人工無脳の辞書を作るとき、「今何時ですか?」というユーザの質問に対する返答を考えていくと、「○○時です」のほかにも「自分で調べたら?」とか「そろそろお昼ご飯だね!」など様々なバリエーションを思いつくだろう。そして、人工無脳の製作者はつい人工無脳に色々な返答をさせたくなってこれら全てを採用してしまうのである。しかし、返答の中身を自我状態に分類してみると、「○○時です」は冷静なAか従順なAC、「自分で調べたら?」は厳しいCP、「そろそろお昼ご飯だね!」はFCかNPに属すると想像できる。これらが辞書に混在することで、人工無脳の自我状態も混乱した印象を与えることになる。そこでまずは自我状態を統一することによる効果を検証するためにも、一つの自我状態だけを持つ人工状態を作ってみよう。

一つの自我状態だけを持つ人工無脳

自我状態を考慮した人工無脳として、最も基本的でシンプルなのはCP、NP、A、FC、ACのいずれか一つだけを持った構造のものであろう。自我の受動的な側面として、辞書型人工無脳の場合は辞書の返答を自我状態に合わせて考えればよい。返答が辞書中に見当たらなかった場合に適当な返事を行なう$NOT_FOUND$は使用される頻度が高いため、自我状態を意識した返答を用意する。また、自我の能動的な側面として、Table 2のような自発的な行動も設計しやすくなる。人間本来の行動の中にはそれぞれ良し悪しがある。人工無脳の場合には意図的に悪い面を避ける場合もあるが、ユーザは人間相手の場合と同じく必ずしも良い面だけを気に入るとは限らない。それも含めて設計段階では全ての面について吟味し、作ろうとしている人工無脳のキャラクタについて考察を深める必要があるだろう。また、エゴグラムのいくつかの質問セットがインターネット上に公開されている2-42エゴグラム性格診断心理テスト(エゴグラム性格診断心理テスト),
3エゴグラムによる性格診断(TESCO Co., LTD),
4性格のワークライフバランスを探るエゴグラム性格診断テスト(ストレスケア.Com)
。これを利用して、「この自我状態ならこの質問にはこう答える」というシミュレーションをするのも有効だろう。

Table 2. 各自我状態での能動的行動
自我状態よい行動わるい行動
CP
批判的な親の心
しつけをする、自立を促す、そっけない挨拶 毒舌、ユーザの以前の行動について辛口の批評をする、ユーザを突き放す
NP
養育的な親の心
傾聴、ねぎらい、健康状態を気遣う質問、お茶、コーヒーを淹れて持ってくる
A
大人の心
ユーザの状態を調べる質問、ユーザの好きなものを聞く、冷静な導入の挨拶 事務的にすぎる応答、
FC
自由な子供の心
歌う、笑う、笑い話を作って聞かせる、自分の趣味の話をする、ゲーム、はしゃいだ挨拶 言うことを聞かない
AC
従順な子供の心
控えめな挨拶 能動的な行動が少ない

自発的な行動を起こすアルゴリズムとしては、$NOT_FOUND$のなかに$ACT_COFFEE$のように特定の行動をトリガするタグを入れておく方法が簡単である。ログ型の人工無脳の場合は、ログがユーザ達の自我状態の集合体となる。そのため、人工無脳にペット的な役割を与えている場合はユーザはNPやFCとして人工無脳に接するため、ログの内容もNPやFCとしての性格が強くなるだろう。そこで、ログの検索とは関係ないアルゴリズムでTable 2の行動を起こすことで、人工無脳をそのキャラクタにそった対応に近づけることができる。

複数の自我状態が共存する人工無脳

一つだけの自我状態からなる人工無脳は設計と運用が容易であるが、キャラクタの幅が狭く不自然である。例えばAだけでは事務的になるかカウンセラーのようになってしまって、話が盛り上がったりはしないだろう。CPだけでは合わせるのが疲れるし、ACではそもそも会話が続かない可能性もある。人間も実際には複数の自我状態の間を遷移しながら会話をしているわけで、人工無脳でも複数の自我状態を併せ持った設計が考えられる。つまりエゴグラム(Fig. 1)にそって全ての人格を実装したり、簡略な方法として二つないし三つの自我状態を実装する方法である。

つづく

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